源泉かけ流しの温泉を選ぶうえで欠かせないのが「湯づかい」の知識です。「加温」「加水」「循環ろ過」――これらの言葉の意味を正しく理解すると、宿選びの視点がぐっと広がります。
そもそも「湯づかい」とは
「湯づかい」とは、源泉から湧き出たお湯を、どのように浴槽まで届け、管理しているかを表す言葉です。源泉の温度、湧出量、成分などの条件によって、各施設は様々な工夫をしています。これらは決して「悪いこと」ではなく、お湯の個性や施設の事情に応じた合理的な対応であることがほとんどです。
温泉地によっては、源泉の温度が極端に低かったり、逆に沸騰寸前の高温だったりすることもあります。湯づかいは、こうした”自然のままでは入浴が難しいお湯”を、安全かつ快適に楽しめる形にするための知恵といえます。
加温(かおん)とは

加温とは、源泉の温度が低い場合に、ボイラーなどで湯温を上げる処理のことです。
日本の源泉の中には、湧出時点で20〜30度台と、そのままでは入浴に適さない温度のものも少なくありません。こうした源泉を活かすために加温が行われます。
加温自体は、温泉の成分そのものを大きく変えるものではなく、「冷たい源泉を気持ちよく入れる温度にする」ための工夫です。加温の有無は施設の浴槽そばに掲示されていることが多いので、確認してみるとよいでしょう。
加温が必要になる源泉の例
例えば、低温の鉱泉が湧き出す温泉地では、源泉だけでは「ぬる湯」としての楽しみ方も可能ですが、多くの宿では一般的な入浴温度(38〜42度程度)に整えるため加温を行っています。
一方で、低温の源泉をそのまま「ぬる湯」として提供している施設もあり、これは長時間浴に向いた湯づかいとして、あえて加温をしない選択をしているケースです。つまり、加温の有無は「源泉の質」ではなく「その施設がどんな入浴体験を提供したいか」という方針の違いでもあるのです。
加温の方法
加温には主に以下のような方式があります。
直接加温は、源泉そのものをボイラーなどで温める方式です。源泉成分への影響は比較的少ないとされています。
間接加温(熱交換式)は、源泉と加温用の水やお湯を別々の管に通し、熱だけを伝える方式です。源泉と加温用の水が直接混ざらないため、成分が薄まる心配がありません。
どちらの方式を採用しているかは、施設によって異なります。気になる場合は、宿に直接尋ねてみるとよいでしょう。
加水(かすい)とは

加水とは、源泉に水を加えて温度や成分濃度を調整することです。
主に2つの理由で行われます。1つは、源泉温度が高すぎる場合に適温まで下げるため。もう1つは、湧出量に対して浴槽が大きい、あるいは成分が濃すぎる場合に、適切な濃度に調整するためです。
加水によって源泉の濃度は薄まりますが、これも安全に入浴するための合理的な措置です。なお、加水に使われる水の種類(地下水、水道水など)は施設によって異なります。
加水が必要になる源泉の例
源泉温度が90度を超えるような高温泉では、加水なしでは入浴自体が危険です。このような源泉を持つ温泉地では、加水は安全のために不可欠な工程といえます。
ここで重要なのは、加水される割合です。極端に高温の源泉であっても、加水の割合が低ければ源泉の個性は十分に感じられます。逆に、もともと適温に近い源泉に大量の水を加えてしまうと、お湯の個性が薄れてしまう可能性があります。「加水あり」という表示だけでなく、可能であれば加水の割合についても、施設の案内や温泉分析書で確認してみるとよいでしょう。
加水と「埋め湯」の違い
加水と似た言葉で「埋め湯」という表現を見かけることがあります。これは、高温の源泉を水で埋めて(薄めて)適温にすることを指す、地域での呼び方の一つです。基本的には加水と同じ意味で使われていますが、地域や施設によって呼び方が異なる点も、湯づかいの奥深さの一つといえるでしょう。
循環ろ過とは
循環ろ過とは、浴槽のお湯を排水せずに、ろ過装置を通して循環させながら使い続ける方式のことです。
主な目的は、湧出量が少ない源泉でも大きな浴槽を維持できるようにすること、そして衛生管理のためです。循環させる過程でろ過機を通すことで、湯の中の不純物を取り除きます。
ただし、この方式では塩素などによる消毒が併用されることが一般的です。消毒剤の使用は、源泉そのものの香りや肌触りに影響を与える場合があります。源泉かけ流しを好む方にとっては、ここが最も注目すべきポイントといえるでしょう。
循環ろ過が必要になる理由
大規模な温泉施設、特に大浴場や露天風呂が複数ある宿では、浴槽全体の湯量に対して源泉の湧出量が不足することがあります。このような場合、循環ろ過によって湯量を確保しながら、衛生面を保つ工夫が必要になります。
循環ろ過は、源泉の供給量という物理的な制約の中で、できるだけ多くの人に温泉を楽しんでもらうための仕組みともいえます。決して「悪い湯づかい」と決めつけるものではなく、施設の規模や立地条件によって必要とされる場合があるという理解が大切です。
消毒方法の種類
循環ろ過と併用される消毒方法には、いくつかの種類があります。
塩素系消毒は、最も広く使われている方法です。塩素の匂いが気になるという声もありますが、衛生管理の観点から多くの施設で採用されています。
オゾン消毒は、オゾンの酸化作用を利用する方法です。塩素特有の匂いを抑えられるとされています。
紫外線(UV)殺菌は、紫外線によって微生物を不活化する方法です。薬剤を使わない点が特徴です。
どの消毒方法を採用しているかは施設によって異なり、すべての施設が同じ方法を使っているわけではありません。気になる方は、施設の公式サイトなどで確認するとよいでしょう。
「かけ流し」との違い
源泉かけ流しは、これらの加温・加水・循環ろ過とは対照的に、浴槽に注がれたお湯を一度きりで排出する方式です。湧出量に余裕がある源泉だからこそ実現できる、贅沢な湯づかいといえます。
なお、かけ流しであっても、温度調整のために加温・加水が行われている場合があります。「かけ流し」かどうかと「加温・加水の有無」は別の軸として理解すると、宿選びの精度が上がります。
「完全かけ流し」という言葉について
施設によっては「完全かけ流し」「加温・加水なし100%源泉」といった表現を用いている場合があります。これは、加温・加水・循環のいずれも行っていない、最も源泉に近い状態でお湯を提供していることを示す表現です。
こうした表記を見かけた際は、温泉法上の適応症がどのように記載されているか、あわせて確認してみると、その源泉の個性をより深く知ることができるでしょう。
表示を確認するときのポイント
多くの施設では、浴室や脱衣所、あるいは公式サイトに「加温・加水・循環の有無」が掲示されています。チェックする際のポイントは次の3つです。
1つ目は、加温・加水の有無そのものは、お湯の質の良し悪しを直接決めるものではないという点です。源泉の特性に応じた合理的な対応であることがほとんどです。
2つ目は、循環ろ過を行っている場合、衛生管理上、塩素系薬剤などによる消毒が併用されているのが一般的だという点です。「循環あり・消毒なし」という組み合わせは基本的には想定されていないため、循環の有無を確認する際は、どのような消毒・衛生管理が行われているかも併せて見ておくとよいでしょう。
3つ目は、源泉かけ流しを重視する場合は、加水・加温の有無に加えて「循環なし」「消毒なし」の表記を探すことです。これが「源泉そのものを味わえる」湯づかいの目安になります。
まとめ
加温・加水・循環ろ過は、それぞれ異なる目的を持つ湯づかいの工夫です。源泉の温度を整える「加温」、濃度や温度を調整する「加水」、湯量を確保しながら衛生を保つ「循環ろ過」――いずれも施設が源泉と向き合う中で生まれた工夫といえます。
「源泉かけ流し」にこだわるあまりに、加温されていないぬるいお湯に入ったり、逆に加水されていないためにお湯が熱すぎて入れないとなっては、元も子もありません。大切なのは、その宿がどのような考えで湯づかいを選んでいるかを知り、自分にとって心地よい温泉を見つけることです。
源泉かけ流しの宿を選ぶ際は、これらの違いを理解したうえで、各施設の表示を確認してみてください。湯づかいへのこだわりを知ることで、その宿がどのような姿勢でお湯と向き合っているかが見えてくるはずです。
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