【療養泉とは】温泉法が定める「名湯」の基準|泉質名がつく温泉とつかない温泉の違い

温泉知識
この記事でわかること
・「療養泉」と「温泉」は法律上どう違うのか
・療養泉の認定基準——何が「治療目的に供し得る」の根拠になるのか
・泉質名がつく温泉・つかない温泉の見分け方
・10種類の泉質の概観と、適応症・禁忌症という制度の仕組み
・療養泉であることが、宿選び・湯治にどう関係するか

宿の案内や温泉分析書を見ていると、「硫黄泉」「塩化物泉」「単純温泉」といった泉質名が記載されていることに気づきます。これらはすべて「療養泉」に分類される温泉につけられた名称です。

一方で、温泉分析書に「温泉法上の温泉」とだけ書かれていて、泉質名がない——そんな温泉に出会ったことはないでしょうか。実はこれ、「温泉ではあるけれど、療養泉ではない」という状態を表しています。

「温泉なのに療養泉じゃないってどういうこと?」

この疑問を解くことが、この記事のテーマです。療養泉の定義と認定の仕組みを理解すると、分析書の読み方がぐっと深まり、温泉選びの目が変わります。

「温泉」と「療養泉」は別の概念

まず前提として、「温泉」と「療養泉」は法的に別の概念であることを押さえておく必要があります。

温泉の定義(温泉法による)

温泉法(昭和23年制定)では、温泉を以下のように定義しています

地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガスで、一定の温度または物質を有するもの

具体的には、湧き出た時の温度が25℃以上であること、または温度が25℃未満でも19項目の指定成分のいずれかが規定量以上含まれていること——この2つの条件のどちらかを満たせば「温泉」と認定されます。

療養泉の定義(鉱泉分析法指針による)

一方、「療養泉」は温泉法ではなく、環境省が定めた「鉱泉分析法指針」のなかで定義されています。

温泉(水蒸気その他のガスを除く)のうち、特に治療の目的に供し得るもので、別表の温度または物質を有するもの

つまり療養泉は、「温泉の中でも、特に治療目的に使えるとされる上位区分」です。

温泉の認定ハードルより療養泉の認定ハードルのほうが高く、すべての温泉が療養泉になるわけではありません。

2段階構造を整理すると

温泉(温泉法)
└─ 療養泉(鉱泉分析法指針)← 泉質名がつく
└─ 療養泉に該当しない温泉 ← 泉質名はつかない(規定泉)

温泉ではあっても療養泉の基準を満たさない場合、分析書の泉質欄には「温泉法第2条別表の〇〇の項に該当する温泉」または「規定泉」といった表記になります。

療養泉の認定基準——何が根拠になるのか

療養泉に認定されるためには、以下の2つの条件のどちらかを満たす必要があります。

条件① 泉温が25℃以上であること

湧出時の温度が25℃以上であれば、成分にかかわらず療養泉として認められます(ただし溶存物質が1,000mg/kg未満の場合は「単純温泉」に分類されます)。

条件② 特定7成分のいずれか1つが規定値以上含まれていること

25℃未満の冷鉱泉でも、以下の7成分のうち1つ以上が規定値を超えていれば療養泉と認定されます。

成分療養泉の認定閾値(目安)
溶存物質の総量1,000mg/kg以上
遊離炭酸(二酸化炭素)250mg/kg以上
総鉄イオン20mg/kg以上
水素イオン(酸性)1mg/kg以上
よう化物イオン10mg/kg以上
総硫黄2mg/kg以上
ラドン30×10⁻¹⁰Ci/kg以上

この数値が療養泉の「物差し」です。たとえば総硫黄は、温泉法上の温泉の認定には1mg/kg以上あれば足りますが、療養泉(硫黄泉)と認められるためには2mg/kg以上が必要になります。成分量の閾値が、「温泉」と「療養泉」で異なるのです。

泉質名という制度——療養泉だけに許される表示

療養泉に認定されると、その成分に応じた「泉質名」がつけられます。

泉質名がつくことには重要な意味があります。それは、「適応症・禁忌症を表示できるようになる」ということです。適応症・禁忌症の掲示は、療養泉に認定された温泉にのみ許可されており、療養泉でない温泉にはこの表示ができません。

泉質名は、平成26年(2014年)の鉱泉分析法指針改訂により、現在は10種類に整理されています。

泉質名特徴の概要
単純温泉成分が穏やか。刺激が少なく入門的な泉質
塩化物泉保温効果が高い「熱の湯」
炭酸水素塩泉肌がなめらかになる「美肌の湯」
硫酸塩泉「傷の湯」とも呼ばれる
二酸化炭素泉炭酸ガスが血行を促す
含鉄泉鉄分を含む褐色の湯
酸性泉強い酸性で殺菌力が高い
含よう素泉よう素を含む希少な泉質
硫黄泉硫黄臭が特徴。皮膚疾患への効果で知られる
放射能泉ラドンを含む。「ラジウム温泉」とも

各泉質の適応症・禁忌症の詳細については、→温泉分析書の見方で解説しています。

なお、泉質名にはこの「掲示用泉質名」のほかに、より詳細な正式名称があります。分析書では「ナトリウム-塩化物泉」「酸性-含硫黄・ナトリウム-硫酸塩泉」のように、主要成分を組み合わせた形で表記されます。

適応症・禁忌症という制度の仕組み

療養泉には「一般的適応症・禁忌症」と「泉質別適応症・禁忌症」の2種類があります。

一般的適応症・禁忌症は、すべての療養泉に共通するものです。疲労回復・健康増進といった一般的な目的での入浴は、どの泉質でも適応症として認められます。一方、急性疾患・悪性腫瘍・活動性の結核・重篤な心疾患・妊娠中(特に初期と末期)などは、一般的禁忌症として全泉質に共通して設定されています。

泉質別適応症・禁忌症は、泉質ごとに異なります。硫黄泉の適応症には皮膚疾患が記されており、塩化物泉には冷え性・末梢循環障害が挙げられています。

重要なのは、平成26年の改訂によって、適応症・禁忌症の根拠が「経験的な見地」から「科学的な見地」へと刷新されたことです。以前は長年の経験則が主な根拠でしたが、改訂後はより客観的な証拠に基づく内容に整理されています。

※ 適応症は温泉法・環境省の基準に基づく表示制度であり、医療的な治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。

分析書で療養泉かどうかを確認する

宿の浴室や帳場に掲示されている温泉分析書を見れば、その温泉が療養泉かどうかはすぐにわかります。

療養泉の場合: 泉質欄に「〇〇泉」という泉質名が記載される

療養泉でない場合: 泉質欄が「判定」という項目名になり、「温泉法第2条別表の〇〇の項に該当する温泉」という記載になる

泉質名があるかないか——それが療養泉かどうかの一番簡単な判断基準です。

温泉分析書のより詳しい読み方については、→温泉分析書の見方をご参照ください。

療養泉であることと、源泉かけ流しの関係

療養泉と認定されていても、それが宿選びの最終判断にはなりません。

どれほど豊富な成分を持つ療養泉であっても、循環ろ過や消毒が行われれば、成分は失われ、薬剤の匂いが加わります。療養泉の価値を最大限に活かすためには、源泉かけ流しであることが前提になります。

湯治ラボが源泉かけ流しにこだわる理由の一つはここにあります。療養泉として認定されるだけの成分が、薄まることなく・変質することなく体に届く——そのための条件として、かけ流しという方式が意味を持つのです。

逆にいえば、療養泉でない「規定泉」であっても、源泉かけ流しでその土地の個性ある湯を提供している宿に価値がないわけではありません。成分の豊富さだけが温泉の魅力ではなく、湯の鮮度や独自の個性もまた、その宿の湯の価値を構成する要素です。

源泉かけ流しについては、→源泉かけ流しとはで詳しく解説しています。

まとめ

  • 「温泉」は温泉法による認定、「療養泉」は鉱泉分析法指針による上位区分——法的に別の概念
  • 療養泉の条件は「泉温25℃以上」または「特定7成分のいずれかが規定値以上」
  • 療養泉に認定されると泉質名がつき、適応症・禁忌症を掲示できるようになる
  • 泉質は10種類に分類され、それぞれ異なる適応症・禁忌症がある
  • 療養泉かどうかは、分析書の「泉質」欄に泉質名があるかどうかで確認できる
  • 療養泉の成分を活かすには、循環・消毒のない源泉かけ流しが重要な条件になる

このシリーズの関連記事

温泉知識
世眠をフォローする
この記事を書いた人
この記事を書いた人
世眠

温泉が大好きで、日本全国の名湯を巡るのが夢です。
このブログでは、実際に泊まって「また行きたい」と思えた温泉宿や、温泉好きとしていつか訪れたい憧れの宿を厳選してご紹介しています。
源泉かけ流しや湯治宿、小さな温泉旅館を中心に、温泉好きの目線で本当に魅力を感じる宿の情報を発信しています。

世眠をフォローする
タイトルとURLをコピーしました